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「もし自分なら?」”ありのまま”を残す、震災遺構の役割 -元施設責任者-

地域のシンボルである請戸小学校。

6年間の長きにわたる帰還困難区域の解除を受け、震災遺構として整備され、防災について考えるきっかけや後世へ伝承していくための施設として公開しています。

震災の爪痕をリアルに感じられる場所でありながら、誰一人犠牲にならなかった請戸小学校から学べることが沢山あります。
わたしからは、震災遺構となった請戸小学校への想いやこれからの役割についてお話します。

「正解はない」ありのままのリアルから学べること。

< 被災当時の姿を残す >

請戸小学校は、浪江町の沿岸部・請戸地区にあり、被災当時のありのままを残していています。校舎に流れてきたものや、津波の威力で破壊された部分など、そのまま展示しているからこそ伝えられるリアルさがあると思います。

本館には、様々な立場や年代の人に見てもらい、自分たちに何ができるのかを,それぞれの立場で考えてほしいと思います。地震・津波だけでなく、自然災害はどこでも起きますし、あの日あの時起きた大震災は”たまたま”東北だっただけです。

実際に経験したことがない人の中には、「まさか自分のところはないだろう」と楽観的に捉えてしまう人もいるかもしれません。しかし、震災を経験した立場だからこそ、前提が崩れることがたくさんあるということを実感しています。

当時の状況や風景を絵本で再現した「請戸小物語 大平山をこえて」を読めば、マニュアル通りでなく、臨機応変な対応で避難したということが分かります。
※順路に沿って絵本のパネルを設置しているので、絵本と実物を見て、どのような状況下で先生が判断し児童が行動したのかがイメージしていただくことができます。

災害時には、絶対的な答えも、唯一の正しい答えもありません。その時いる場所や状況によってどうするのか。来館した方々には、「悲惨だったね。」「可哀想だね。」という感情で終わるのではなく、新たな気づきを得てほしいと思います。

この場所に自分を投影し「もし自分なら?」と考えるために

< 児童が避難道を指す様子 >

請戸小学校には団体のお客様も多く、小中学校の割合は全体の約20%です。ここに訪れた先生や学生には、 歴史上の物語ではなく、つい先日の出来事だということを強く感じてほしいです。

震災から、1年経ち2年、3年そして最近ではだんだんと東北の震災のことが、被災地以外では遠い存在になっているような気がします。しかし、災害はいつだって、私たちの身近に起こりうるものだということ。自然とは、人間にとって時に脅威にもなりうるということ。

そのようなことを、文字ではなく空間で身をもって感じてほしいと思います。当時の児童・教員は、請戸小学校から800-1,000m離れたところまで逃げ切ったということ。そして、命の危険を感じらながら走っていたということ。

この場所に自分を投影し、もしあの時自分なら?を考えてほしいです。

「リアルさの維持」「実践的な防災」という2つの課題

<「失われた街」模型復元プロジェクト >

今後の課題は、2つあります。
1つ目は、”ありのまま”というコンセプトを維持したままで、震災遺構としての役割を保つということです。

震災からの年月が経過していき、建物の劣化が進むと手を加えることが必要になります。来館される方に被災当時のありのままの様子を見てもらおうという大切なコンセプトを守り、存在意義を確立し続けないといけません。遺構そのものの維持管理は、これからの課題だと感じています。

もう1つは、災害に対応するために実践的な防災をコンテンツとして取り入れることです。
東日本大震災後も、日本各地で大きな災害が発生している中、自然災害の増加を実感している方がいる一方で、忘却されているような気もします。

しかし、近い将来、南海トラフや首都直下型等巨大地震が想定されています。いざという時のために、防災教育や防災訓練が形骸化しないことが大切です。

例えば、災害時に携帯が繋がらなくなり、身近な人と連絡が取れなくなったとき、どうするのか。子供たちが、下校途中や1人で留守番しているときなど、学校以外にいたらどう行動するのか。家族や先生が同じ場所にいるとは限りません。そして、朝か夜か、夏か冬など時間帯や季節によっても異なります。

来館する皆様にはぜひ、理解を深める事前学習をした上で、当日は多くのことを感じ取り、 訪問後は自分たちの地域でどのように活かせるか、というところまで考え施設見学をしてほしいです。

現在、請戸小学校のHP・団体予約からは事前学習資料がダウンロードできますので、ぜひ活用してください。また、今後は防災ツアー・避難体験会の実施などを計画しております。
これからも震災を風化させないため、そして教訓を伝えていくため、請戸小学校を存続させていきたいと思います。

あの日あの時起きた大震災は”たまたま”東北だっただけ

プロフィール

蒲原 文崇さん
2023年3月まで町教育委員会の教育次長を務め、請戸小学校の施設管理責任者。防災意識の向上や過去の記憶を未来に継承していくために、請戸小学校の運営に尽力された。現在は町役場の産業振興課に異動。