生徒と教員全員が無事助かったというストーリーは、絵本「請戸小学校物語〜大平山をこえて〜」を通して、過去から現在・未来へ紡がれています。
もし自分の地域で災害が起きたら、どのように命を守るのか。単に事実を載せているだけでなく、ここで起きたことを”自分ごと”にするきっかけとなるようなメッセージを綴っています。
私たちが、どんな背景や想いを持って絵本を制作したのか。そんなことを皆さんに伝えながら、請戸小に足を運ぶきっかけになってくだされば幸いです。
福島との関わりは、震災以前からありました。都会と地方の交流を目的とした「ふるさと交流」という活動が始まりで、その中でりんご農家さんとの繋がりがありました。
しかし、震災後は放射能の風評被害によって、経営が厳しいとのご連絡があり…。少しでも力になりたいとの想いから、ネットで野菜を販売する支援活動などを行っていました。
そして、団体メンバーから現地の状況を自分達の目で確かめようという声があがり、数年後に浪江町を訪れました。
そこでは、見たこともない光景が次から次へと流れていき、山積みになった車や船が放置されていました。一方、津波被害をうけていない住宅地では、建物が崩壊せずそのまま残っています。近くには猪が通り、雑草が生い茂り、自然の生きる力を感じられる一方で、実際には人の気配が全くありません。私たちにできることは何か、と考え続けていました。
そんな時、 副町長さんが「被災した事実を風化させないで、伝えてほしい」ということを聞いたんです 。時間とともに関心が薄れてしまう、それは震災を知らない世代が増え”過去のこと”になり、忘れられてしまうということ。私たちにできることとして、この事実・記憶を次世代にも伝え続けることはないかと考えました。
そして、当時一緒に浪江町に行った早稲田大学の学生から「絵本を一緒に作りませんか」という提案を受けたんです。武蔵野美術大学の学生との繋がりもあり、絵をかける人も揃っているとのこと。
児童と教員全員が無事避難できた請戸小学校の話は、地元の方々の間でも有名な話でした。
わたしたちも、 物語を紡ぐ絵本は、震災を振り返ることができ、人々の記憶の中に残ると思いました。 そのような背景から、請戸小の事実を一冊の絵本として描く「請戸小学校物語 〜大平山をこえて〜」の制作が決まりました。
絵本に託した大切な思い。それは最後のページで問いかける 「あなたにとっての大平山はどこですか?」 に込めています。
近い将来、南海トラフや首都直下型地震が予想されています。都会に住んでいたりすると、なんとなく遠いものに感じますが、地震や自然災害は突然やってきます。
被災していない地域や経験していない人たちが、あの日のことをどんどん忘れてしまい過去のものになってしまったら…。
自分と、自分の大切な人の命が守れるように。自分の住む地域で災害が起きたとき、どう対応するのか。日頃から備えはできているのか。 「助かった」という事実の裏には、多くの教訓が含まれているからこそ、この絵本を通して議論するきっかけをつくり、それぞれの地域で広まってほしいです。
一方で、何を一番に伝えるのか、どんな要素を入れるのかは大変悩みました。原発事故のことを入れるべきか、誰にどんなことを伝えたいのかなど沢山話し合いました。
事実を脚色なく伝えることを強く意識しています。 現地でヒアリングをしたり、読み手に委ねるような表現にしたり。
強い想いを持つ仲間が集まっているからこそできた作品だと思います。
これからが本当のスタートであり、物語をどう活用・展開していくかが課題です。請戸小でのパネル展示の他、各地で紙芝居の読み聞かせをしたり、販路拡大にも力を入れ始めています。
特に請戸小には教育旅行としても訪れる人が多いため、事前学習資料としても活用してほしいですね。現地で見て感じることも大切ですが、その前後に問いかけのようなものがあれば、より学びが深まると感じています。
そして、訪問後は自分は命を守るために何ができるのか、 一番のメッセージである「あなたにとっての大平山はどこですか」に向き合い実践していただきたいです。
団塊世代を中心に、教育や福祉など様々な社会問題に対して、それぞれの方が持つ経験や人脈を用いて、新しい未来展望に向かって活動している団体。震災直後から地元農家の支援を行い、被災の事実をより多くの方々に知ってもらうことを目的に絵本制作に至った。